大学生の「イッキ飲み死」は なぜなくならないか

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大学生の「イッキ飲み死」は
なぜなくならないか

NPO法人薬物問題全国市民協会 教育講師
ウエルネスアカデミー評議員  紙谷名枝子

2017/9/1


毎年のように、大学生がイッキ飲みよって死亡する事件が、おきています。各大学でも生協をはじめとして、学生支援センターなどでも取り組んでいますが、なかなかなくなりません。 私はイッキ飲み防止連絡協議会の予防教育講師として各大学からの要請で、学生たちにイッキ飲み防止の講演をしています。大学の中にはかつて死者を出した大学だけでなく、危ない事件が起きた大学や専門学校なども含まれます。 この活動は、すでに10年を超えていますが、イッキ飲みの事件事故はなかなかなくなりません。

その問題としては、アルコールの正しい知識がないこと、また年齢が上の人には従わなくてはいけない、部活などの歴史や慣習は踏襲するべきといった様々な圧力が考えられます。


その背景にあるものは

① そもそもアルコールとは何かという知識は、誤解や、思い込み、偏見が巷にあふれています。 アルコールが依存性薬物であり、多量にまた長期間にわたって飲むと、危険ドラッグの覚せい剤や、マリファナ、MDMA、シンナーなどと同じ成分や性質を持ち、脳や身体への影響が大きい事を正しく知っている人は少ないのです。

そのためにどんな人が飲むと危険か、どのくらいの量が危険か正確な知識が広がらないのです。 またアルコールやタバコはこうした脱法ドラッグの入り口になるとさえ言われています。 薬物依存者の多くは「アルコール依存症」や「ニコチン依存症」などの依存症を持っていることも多いのです。

② 日本には、「親や年上の人、また先輩は尊敬し敬われる存在であるから、その命令には従わなくてはいけない、そのことが日本の美しい伝統あり文化である」という考え方があります。

そうした上の人たちがアルコールについて正しい知識をもっているかというとそうではありません。 今までの自分たちの経験で、「うまくいったこと、大事にいたらなかったこと」をアルコールの常識、むしろ「手柄」「褒められるべき勇ましい話」として持ってしまっています。 そしてそのことを、若い世代に「良き話」として伝えていっているのです。

また飲み会に「誘われて断るのは申し訳ない」とか「人数を集めなければ先輩や幹事に申し訳ない」と言った相手への思いやりのし過ぎがこうした事件事故につながっていることも見えてきました。 嫌なことを嫌だと言えない状況にする「アルハラ」と呼ばれる人権侵害が起きるのもこうした背景があるからです。 こうした「部の伝統」が思いもかけない事故になり、刑法上の罪状が課せられることもあり、被害者、加害者の両方が社会的にも問題を抱えることになるのです。

③ アルコールを通して「飲みにケーション」などと言う言葉で、人間関係をスムースにする一つのツールとして飲酒を奨励するような気風があります。 実はアルコールの「酔い」は大脳皮質新皮質の理性の脳がマヒするところから始まります。 言ってはいけないことやしてはいけないことの判断ができなくなります。 案外、こうした飲酒の席でトラブルになることも多く、「酒の上だから」と容認されてしまいますが、本当の意味での話し合いや、解決を目指した相談にはなりません。 本人が酔っている自覚のないまま、ほろ酔い状態でのセクハラや飲酒運転、暴力をふるう、等の迷惑な事件事故が起きます。 また、ここがマヒすることで、勧められるまま、強要されるまま、もう飲めない状況にあるにもかかわらず飲んでしまい、その結果イッキ飲みの事故が起きることになります。

大学生からの質問

大学生からの質問の中には「OBやOGからの飲酒の勧めを断りたいがどうしたらよいか」や「飲み過ぎている先輩の飲酒を止めたいがどうしたらよいか」などの質問があります。

そのような質問には、現在の幹事が主導権を握って、イッキ飲みを防ぐことを目標に、ソフトドリンクの用意や座席の配慮のほか、ついで回らないなどのルールをはじめに伝えておくこと等、をアドバイスします。

また早く酔いをさますには「スポーツ飲料割の焼酎は効くのか」「お風呂に入ったり、サウナに入って汗をかけば」「コーヒーやお茶を飲めば」「水をたくさん飲んで尿をたくさん出せば」や「何時間か寝れば」など効果があるかどうかを質問してきます。 寝ると肝機能が落ちますからかえって時間がかかりますし、呼気や汗で体外に出るアルコールは5~10%程度であり、酔いを醒ますには主に肝臓での分解に頼るしかありません。 肝臓は0.1g/体重1kg×時間=アルコール量でしか分解できません。1単位4時間で分解できる量20~25gが適量です。2時間で3単位以上を飲むことは危険とされています。

また「シジミ汁を飲んだら」「ウコンを飲んだら」「ヘパリーゼ」を飲んだらと巷の間違った知識を質問してくる場合もあります。 こうした間違った知識で、これらを飲ませて飲酒を強要する事件もあり、これらの知識は間違っている上危険だと知ってもらうことも必要になっています。

大学生からの新しい動き

~大学生からこんな活動が生まれました~

今学生から新しい動きが生まれています。「また飲み放題?同じ金額を払うならごち会!」というサイトを立ち上げた学生がいます。(彼は今は社会人)このサイトで彼はこう書いています。

「えだ豆やえびせんに3000円は高いな。コールするほど飲むのは楽しいだろうか。
けれど友人に「交流のためにお金を払っている」と言われて我慢していました。
サークルやクラスの飲み会と言えば、いつも決まって飲み放題コース。
楽しい会には参加したいけど、
本当は「料理が少ないかも・・・」「そんなに飲まないのに・・・」
と思うこと、ありませんか?
同じお金を払うなら、とっておきのごちそうが食べたい。
飲み物は、食事に合う美味しいお酒を大切にゆっくり味わいたい。同じ金額を払うなら、美味しい食事をしっかり食べたい。
そんな大学生の想いから生まれた「ごちそう+飲み物2杯」の美味しい選択肢、
それが「ごち会」です。
大学の友人たちとの飲み会後、私はいつもおなかがすいて帰っていました。ある日、お昼に友人とフレンチを食べました。その美味しかったこと。ドルチェがつき、1500円でした。
「飲み会にいくら払っているだろう?」
その時、「お金を払えば美味しいものが食べられる」と実感しました。」

このサイトでは「ごち会」に賛同してくれるレストランを紹介したり、そこの料理を載せています。
たのしくおいしく食べたいという気持ちの満載のサイトです。

こうした活動が広まり、イッキで失われる命がなくなるだけでなく、アルコールの正しい知識が広まることで、アルコールや薬物の依存症が減ること、健康被害が減ること、さらには社会的損失が減ることを目指しませんか。 (詳しいことはwww.ask.or.jpをご覧ください)